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羽鳥静夫さんを偲ぶ [その他]

11月2日、羽鳥静夫さんが亡くなりました。享年75歳。私がそれを知ったのもそれから数日後のことです。

ご家族より、しばらくそっとしておいて欲しいとの申し出があったこともあり一切の口外はしませんでした。どこから話が流れたのか、中には直接質問を投げかけてくる人もいたのですが一切の返答をしなかったのはそのためです。私以外のスミス関係者においても同様です。事情を察していただき、ご理解いただけたらと思います。

現在ではWEB上の公表に関してご家族の了解が得られていますが、そっとしておいて欲しいというご希望は変わらずですので、その点もどうかご理解下さい。

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かなりハードな撮影で閉口しましたが、何度か「羽鳥静夫サーフェイスゲーム」というビデオの撮影に同行したことがあります。車の運転、アルミボートのセッティング、カメラ艇の操船というのが自分の役割でした。

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羽鳥さんは自らが表舞台で目立ちたいといった願望は全くなく、むしろ顔写真を撮られることすら嫌っていました。ビデオ撮影に関してはT専務がお願いして何とか許可を取り付けたと聞いています。

撮影自体の過酷さはさておき、羽鳥さんの釣りというものを実際に目にすることが出来たという点に関しては自分はとても幸運だったのかもしれません。キャスティングの際にプラグが伸びやかに飛んでいく弾道が美しく、ラインスラッグを用いたルアー操作もまた然り。トップウォーターの釣りってこんなに簡単だったかな?と後日にプライベートの釣りで真似したりもしたけれど、やっぱりそう簡単なものではありませんでした。

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また、現在でも販売されているインナーハンドW.B.(プラスチックモデル)、恐竜シリーズといった製品のフィールドテストに同行することが出来たのも私にとっては貴重な体験だったと言えます。
自分は元々、トップウォータープラグにスナップを装着していました。その方がプラグはより動くと思っていたからです。ですが羽鳥さんからはナイロンラインの直結を勧められました。ラインも私が使っていた12lbでは太く、8~10lb位が良いと。
確かに同じインナーハンドを操っても、羽鳥さんが操るものと私が操るものでは動きの滑らかさが別物でした。

一般的にはトップウォータープラグビルダーのイメージが強いであろう羽鳥さんですが、私はそれとは違うイメージを持っています。羽鳥さんはジャンルを問わずルアーデザイナーとしての実力がズバ抜けていました。ハスティー、ミスティー、ディプシードゥなども羽鳥さんのデザインしたものです。

羽鳥さんはCAD設計などは出来ません。ですが「こうしたサイズでこうした機能が欲しい」とだけ伝えると「それだったらこれがいい」ということでバルサを削ったボディーが渡される。それに合わせて簡単なイラストが記されており、こことここの位置にこのサイズのウェイトを入れるという指定も出されていました。そしてその通りにアクリルの削り出しでサンプルを試作すると、驚くことにこちらの要望した機能がしっかりと実現されているのです。

私自身もバルサを削ったハンドメイドルアーは多少の心得がありますが、あれこれと形状もウェイトバランスも調整しながら完成に近付けていくというのが常です。良いものになるまで何個も作る。でも羽鳥さんの場合はほぼ一発で決める。
そしてもしサンプル製作段階で結果が今一つだった場合は「ここを*mm削ってあげると改善される」という具体的な指示が出され、実際にそれに従って修正するとその通りになるのです。

羽鳥さんのルアーデザインの根底にあるものは常に「ボディー形状」でした。独特のカーブを持つハトリーズのトップウォータープラグも、単なる見せかけだけの飾りではなく機能を求めた結果あのような形状になったものです。それは僅かコンマ数ミリの違いで泳ぎが変わってしまうようなもので、いかに完成されたボディーシェイプなのかを痛感させられることが何度もありました。

バルサ製のルアーをABS製に転化する場合、ルアーの生産に関わる多くの人は「バルサ製の泳ぎはABSでは再現できない」と言います。でも羽鳥さんは「出来るはずだよ」と言い、実際にそれを何度も見せてくれました。水をどう受け、どう纏い、どう逃がすか。それをきちんと計算してあるボディーフォルムであればバルサだろうとABSだろうと関係ない。そういうことを言いたかったんだろうと思います。

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クランクベイトやミノーにおいてさえ、ルアーはリップに水を受けて泳ぐものではなく、あくまでボディー形状で泳ぎを出すものだと考えているようでした。羽鳥さんのデザインするクランクベイトやダイビング系プラグはいつもリップの先端が丸く、スクエアー形状だったり先端が尖ったリーフ型のものなどは一切ありませんでした。理由を尋ねると、この形状のリップが一番ルアー本来の泳ぎを阻害しないと。そしてクランクベイトの重心移動に関しては否定的でした。

羽鳥さんがデザインしたクランクベイトはリップを除去しても泳ぐものがありました。羽鳥さんのボディーデザインは泳ぎを生むために計算されたもの。羽鳥さんの作るプラグはポテンシャルそのものが圧倒的に高かった。

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羽鳥さんはその立ち位置も独特でした。そもそも、これだけ知名度のあるビルダーだというのに限られた人しか交流がない。何度か雑誌社からの出演依頼もあり、都度打診をしてみたのですが全て断られました。イベントなどに顔を出したという話もほとんどありません。DVD(ビデオ)を観たことがない人は、その顔すら思い浮かばないという人も多いのではないでしょうか。

羽鳥さんには、有名になりたいだとか、人前に出ようだとか、ルアーを沢山販売して金儲けをしようとか、そうした邪念は全くありませんでした。自分のペースで作りたいものを作る。それを欲しいという人がいたら分けてあげる。元々はそうだったのだろうと思います。

人前に出ないことで神聖化されたいとかそうした考えは全くなく、むしろその逆で、人前に出ることで特別扱いされることを嫌がっていたのではないかなと思います。そういう人でした。温厚な人格者でした。

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カタログ製作を進めていくにあたり、撮影スケジュールの関係で新製品のサンプルも11月半ばまでには揃える必要があります。それに間に合わないものは残念ですが掲載を見送りにするしかない。今回、ルアーの中で撮影サンプルの手配が最も遅れていたものがハトリーズスペシャルの2020年モデルでした。
しかしながらハトリーズスペシャルに関しては毎年必ずカタログ掲載をしている製品でもあり、私としてはタイムリミットギリギリまで待ってでも何とか掲載したいと考えていました。

羽鳥さんもそれに呼応してくれ、何とかギリギリ間に合うように新モデルの塗装を進めてくれることになっていました。もしかすると少しタイムリミットをオーバーしてしまうかもしれないけれど、何とか2020年度のハトリーズスペシャルはカタログ掲載できるだろうと思い、そのためのページも割いておきました。

結果的にその目論見は外れました。私の元に羽鳥さんからのルアーサンプルが届く見込みはなくなってしまった。2020年以降、ハトリーズスペシャルの新作が出ることはもうない。3巡目に入っていた干支シリーズの終着点を羽鳥さんは決めていました。残念ですが、そこまで到達することは出来ませんでした。

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ルアービルダーは成功さえすれば、とても幸せな仕事です。ラウリ・ラパラもジェームス・ヘドンも後世にその名を広く残しているし、その作品が今も大勢の釣り人達に支持されている。そして羽鳥静夫という名はこれからもずっと残っていくし、羽鳥さんが生み出したルアーの数々もまた然り。

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でも『偉大なるルアービルダー』なんて称したら、羽鳥さんのことだからきっと「やめてよ~」と言ってくるに違いない。羽鳥静夫「氏」という表現さえ止めて欲しいと言っていた人ですから。

羽鳥さんと共にルアーの開発業務にあたることが出来たことは自分にとって本当に幸運な事でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。ありがとうございました。
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