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おねえさんに教わるK用水

家から近い場所に釣り場があればどんなにいいだろう。釣り人ならば誰もが思う。でも千葉県育ちの自分にはそれは特別なことではありませんでした。池にも川にもバスが居て当たり前だった。高校、大学と、学校が終わってから釣りに行く日々だった。1~2時間も釣りをすれば5尾位は普通に釣れる。ボウズなんてありえない。それが当たり前でした。

転職を機に埼玉に越してきた際、意図的に中川の側にアパートを借りた。これで仕事を終えたら毎日バス釣りが出来るな、そういう目論見があった。けれども中川ではバスは釣れませんでした。見た目は良さそうな場所がいくつもあるのに、まるでバスの気配がない。夏になるとシーバスが釣れるというのは想定外の収穫でしたが、近所でバスを見つけることは出来ずにいました。

そんな折、ちょっと年上のスレンダーなおねえさんと知り合い、食事に行くことになりました。そこで、互いの趣味などについて話をするのは必然的な流れです。自分が釣りをする話をしたところ、おねえさんから意外な言葉が発せられたのです。

「私、アブガルシア知ってるよ!」

普通、釣りをやらない人の口からでもメーカーなら「ダイワ」、お店なら「上州屋」、この程度は出てくることがあります。でも、釣りをやらない女性の口からアブガルシアはなかなか出てくるものではありません。「何でアブガルシアなんて知っているの?」と聞いたところ、以前に勤めていた職場では釣りをたしなむ同僚が多かったらしく、その人達がアブガルシア製品を使っていたから、ということでした。

へぇ~、職場に釣りをする人が多く居たんだ。そりゃ楽しそうな職場ですね。

「昼休みになると会社の前の水路でルアーを投げて、ブラックバスを釣っている人達が居たんですよ」

そりゃあうらやましい環境だなぁ(仕事が手に付かなくなりそうだけど)。んっ?でもおねえさんの住んでるマンションってこの近くですよね?前の職場って結構遠かったんですか?

「いや、ここからすぐのところですよ。MKの工業団地、わかりますよね?」

エーッ!ここからすぐのところじゃないですか!あんなところにバスが釣れる水路なんてありましたっけ?!

「水路は、K用水ですね。職場はその目の前にあったんです。丁度そこに工場からの水が出ているところがあって、会社の人達はそこを狙ってました。たまにしか釣れなかったですけど何度か釣れているのを見ましたよ」

こうなると、食事であるとかおねえさんとの普通の会話はすっかり上の空になり、K用水のことばかりを聞いてしまう私なのでした。すると優しいおねえさんはこう言った。「なんだったら、今から案内してあげるよ。ここからわりと近いし」

マ、マジですか?!

折角お洒落な格好で食事に来て、おねえさんは足元もヒールを履いていました。そんなおねえさんに水路の案内をさせてしまうのは気が引ける部分もあったのですが、それ以上にK用水への興味が沸いてしまって止まりません。ここはおねえさんのご厚意に甘えさせていただくことにしました。

K用水の周辺は工業団地で、川沿いの道も普段はトラックなどが頻繁に出入りしているのは自分も知っていました。もしここでバスが釣れるとしても車で来るのは難しいかな?駐車スペースもないだろうし・・・

「平日は駄目ですけど、日曜日だったらあそことあそこの会社は休みになるから、この辺に車を停めておけば全然平気ですよ」
すごい、そんな事まで知っているのか・・・


そしておねえさんはヒールを履いたまま、水路を案内してくれました。
「ここです。今はレンガが敷かれちゃっているけど、前はここから工場からの水が出ていたの。レンガが敷かれちゃってからは釣れなくなったみたい」


パッと見、ここに排水口があったなんて地元の人でないとわからないはず。先程の駐車の件といい、絶対に自分独りだけの釣り場開拓では知り得なかった情報でしょう。釣りをやらない女性から得られる情報なんてたかが知れているだろうと思いきやそれは大間違いで、とんでもなくコアな情報を入手することが出来たのでした。

但し、この日はタックルを持っていなかったので後日K用水の調査を行うことにしました。おねえさんが教えてくれたポイント以外にも、アシやオーバーハング、垂直護岸など、いかにも釣れそうなポイントが点在していたのです。気になる場所が山のようにありました。これはじっくり開拓しないと。

「ありがとう!今日は楽しかった(自分は)」
でもおねえさんは楽しくなかっただろうな、今思えば。


その後、何度かおねえさんから食事やドライブの誘いがありました。しかし自分はその誘いを上手くはぐらかしては、週末になるとK用水の開拓に燃える日々を過ごすのでした。

K用水は下流域で中川に繋がっているらしく、イナなどが遡上してきていました。干満の影響も僅かに受けるようで時間帯によって多少流れが強くなったりもしていました。しかし、いかにも良さげなポイントが点在するK用水でしたが、結局バスを手にすることは出来ませんでした。う~ん、やっぱり魚影は薄いのかもしれないな、中川水系は。

あっ、水路開拓に夢中になって、すっかりおねえさんの事を忘れてた!釣れなかったとはいえ色々教わったのだし、感謝しなくちゃね。お礼に、たまには食事にでも誘ってみるか。

しかし、久しぶりに連絡した際のおねえさんの態度は以前のそれとは異なるものでした。どうやら私に対して呆れと怒りを感じているようでした。そ、そ、そりゃそうか(焦)。結局その後、おねえさんとは疎遠に。

釣りばかりしていないで、ちょっとは女心にも留意した方がいい。そんなことを学んだ若かりし日の思い出でした。あんまり、今に生かせてない気がするけど。

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I-K

久々のおねいさんネタ、ナイスです(^^)
しかし釣りバカ…失礼、釣りキチ過ぎますよ~(笑)
でも…しょうがないですよね~、こればっかりは(^_^;)
釣り最高!
by I-K (2013-04-05 08:56) 

村井

地元じゃ誰もが知っている釣り場ですよ。
by 村井 (2013-04-05 19:24) 

hina

IKE-Pさん、こんにちは(^o^)/
個人的には、こちらのネタ大好きです。
これからもバスを絡めた楽しいブログ期待してますね。
by hina (2013-04-05 19:49) 

IKE-P

> I-Kさん

やっぱり釣りバカ過ぎでしょうかね(笑)
一生治りません!
by IKE-P (2013-04-05 23:17) 

IKE-P

> 村井さん

お店で聞いたりした方が手っ取り早かったですかね?
でも話のネタにはなったので良しとしたいです。
by IKE-P (2013-04-05 23:19) 

IKE-P

> hinaさん

昔からこの手のネタ好きですねぇ(笑)
ここに書けないような話はまた会った時にでも。
by IKE-P (2013-04-05 23:21) 

ばんぱく

嗚呼、色々な意味で勿体ないことをしましたね(≧∇≦)
by ばんぱく (2013-04-08 07:02) 

IKE-P

> ばんぱくさん

当時は女性と知り合う機会も多かったので、勿体無いという感覚は特になかったですねぇ。あんまり自分の好みのタイプではなかったのかも。
by IKE-P (2013-04-09 00:12) 

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